森村誠一『人間の証明』角川文庫/読書感想

解説を横溝正史氏が書いていて、しっかり誉めている。(ただし、氏がかなり内容について踏み込んでいるのでネタバレを気にする人は解説は読まない方が良いだろう)。

本作は、松本清張を経て日本の推理小説に今日性、ひいてはメッセージ性が意識されるようになって以降の作品として、厚みのある社会論を背負っている。

この作品を紡ぐ事件は二つ。ひとつは身よりのない米国籍の黒人旅行者の刺殺事件、ひとつは病の夫を養う水商売の妻の失踪事件である。

この二つが並行して進展するのだが……

以下、少しネタバレする。

結局、二つの事件はかすかに接するものの密接な関係は持たないことが分かる。

そのため、タイトルによって強く印象づけられている「人間の証明」というテーマが曖昧になっていると思った。

確かに、一方への愛情によって犯人の人間性は一部証明されたように見える。しかし、新見という例が作品中に示されているように、そして作中で既に犯人が語ってしまっている通り、他への愛情は示されていない。

そういう人間性への諦めが、事件解決後の棟居刑事の裏腹な心境とは対象的に、終章を飾るひとつの死が象徴されているように見えて、メッセージは総体として居心地が悪いものに仕上がっている。

そういう苦い作品として、良い味わいがある。