松岡圭祐『千里眼 完全版』角川文庫/読書感想

1999年出版の同名作品を全面的に改稿した作品。恐らく、旧作とは完全に別物。9.11など時代背景の変化を踏まえているということだが、改稿前なら先見性がどうのという評価もありうるのに原型がまったく想像できないくらい変化を感じさせる内容となっている。

国家転覆をもくろむ宗教団体の陰謀に、元自衛隊戦闘機パイロットで現臨床心理士という異色の経歴を持つヒロイン・岬美由紀が立ち向かう!

という作品。

全面改稿だけあって文体に揺れなく、展開に淀みない。少し説明口調が気にかかるきらいはあるが作品の性質上仕方ないものと思う。ハッタリの利き方といい、エンターテイメント性の高さが素晴らしい良い作品。

とにかく、よくもまぁこれだけ書きなおした、という感じ。旧作を読んでいないのに、それが伝わるほど変わっている。旧作の空気を感じさせるのは仙波航空総体司令官が机のごみを集めるシーンくらいだろうか?2001年の9.11を背景に盛り込んだりと徹底している。

だが……「Wiiでトワイライト・プリンセス」ってのは正直、どうなんでしょうか?やったことないんですけど、小学2年生の女の子がやるにはかなりハードそうなゲームじゃないでしょうか?「神々のトライフォース」難しかったですよね?どうなんですかゲーマー的には?

……とか、気になる部分はあるものの、そのサービス精神は驚嘆に値する。

5年以上前に日経の夕刊で文庫版で大幅な加筆修正をする作家が増えていることを取り扱った記事があり、松岡氏も名前が挙がっていた(はず)。その時には「同じプロットで2度買わせるとか、あこぎな商売だ」と思いましたが、ここまでやられると文句を言いにくいわ。

……これ、販売戦略的にはどうなのだろう?僕は最初から文庫しか買わない人なので無関係だけど、「どうせ文庫で大幅加筆修正なら新書はスルーして文庫待ちだろ」ってカンジで新刊の売り上げが下がるって事はないのだろうか?

いや、続いていると言うことは、ないんだろうな。恐るべし。

面白い作品だからつい買っちゃうんだろうな。

アイディア出なくて苦しんでいる作家はみんなこれをやってみればいいのに、とちらりと思ったけど、そんなことしてたら書店が過去作品のゾンビだらけになって本格的に文学界は死ぬなぁ。劇薬的な商法ってことか。複雑な気分だ。

それにしても作品には全然関係ないところで、写真映りのカッコつけ具合を嫌っていたので食わず嫌いしていて損した気分だ。

そもそも、血液型性格診断の件でこのブログでひと論争あった一因にも、毎日の血液型性格診断批判記事にこの人が顔出し(イケメンショット)で掲載されていて、「コメンテーターの顔は関係ないっつーのに、何でこんなカッコつけがでしゃばりおってー!」とカチンと来たのもあったのですよ。うん、自分、嫉妬乙。

あの毎日の特集は、ニセ科学とか批判しようぜっていう志は正しいものの、記事の書き方がまずくてイライラしたのよ。「信じるヤツはバカ」みたいなカンジが。いやー、脊髄反射したね。そしてかっちりしっぺ返し喰らったね。落ち込んでる時期には辛かったわぁ。自業自得ながら。今思うとバカな事書いたと思うけど。

なんかこう、著者近影を見ると虫唾が走るんだよね。作品には全然関係ないけどね。不細工のひがみとかカッコ悪いわぁ、俺。

(20090425追記)

次の2巻を読んだひどい感想↓

『千里眼 ミドリの猿 完全版』感想 http://ropaque.blog19.fc2.com/blog-entry-1940.html

ぜひご参考にしてください。