恩田陸『図書室の海』新潮文庫/読書感想

短編集である。

六番目の小夜子』および『夜のピクニック』に関連する短編を含むということだったので、このタイミングで読んだのだが、どうもこれらの他の作品への予告編(!?)やらを含んでいるそうである。

解説にその点に関して素晴らしいフォローが入っていたが、それは裏返せばこれらの作品群においてそれ一個で完結した作品になりえていないということだ。

その意味で物足りなかった。

この一冊を読んで改めて気がついたのだが、恩田氏の作品で僕が特に心惹かれるのは学校生活のあの青臭い煮え切らない感じをきらきらに描いている部分であって、作品全体の流れには平板で物足りないものを感じている。

例えば、解説において「茶色の小瓶」と「国境の南」について恩田氏自らが類似性について語っていたが、周到な作家ならば(あるいは「陰湿な」と言い換えてもいいが)両作品の登場人物に共通性を匂わせるものを用意する。そして、短編集としての起承転結を考えた配置を行うだろう。

そういう大きな流れの無さは不満が大きいところだ。

さて、解説で素晴らしいフォローが入っていたと書いたが、今ネットで検索したらこんなのが引っかかってしまった。

恩田陸『図書室の海』解説の没バージョン(YAMAGATA Hiroo Official Japanese Page)

ちょw解説褒めたのにw

解説氏自重www

(なかば余談)

上記リンク先にて、山形浩生さん曰く。

ほら、なんだっけ、名古屋の工学部の先生の書いてる、Fになるとかなんとか、萌え系お嬢様女子高生と作者のナルシズム全開キャラの出てくるシリーズ。あれみたいな、トリックだけは物理的にはかろうじてつじつまがあっても(とはいえ「すべて仮想現実でした」なんてのがまともな意味でのトリックと呼べるならね)その他すべてがペカペカした感じ。

惜しい。萌え系お嬢様だけど大学生っす。というのは細かいとしても、てか、はんぱだよ。「なんとか」とか言わずに無名さを活かしてもっとつっこめばいいのに。

だいたい。

キャラ萌えを自覚してなお世界観どっぷり浸かれるがよく訓練された森ファンだったりする。森氏による解説本では、「ミステリの皮をかぶった」という言い回しが良く使われるし、売れ線を知るために「館シリーズ」読んだとか、年間に10冊も本読まないとか、鉄道模型のために本書いたとか、そんな感じよ。だがそれがいい

恩田氏の作品はつくられたにしてもそのどっぷり感がなかなかうまく行かないんだよなぁ。

良く訓練された状態でもこんな感想(→『夜のピクニック』感想)で、この『図書室の海』はちょっと無理でした。

ところで、すべて仮想現実というトリックの話はあったっけか?

(こうして感想も本題からずれていくのだな・・・)