小運動会/夢日記

DATE=080629.sun

掃除の時間も終り、電気が消えた教室。

夏の終わり8月末。

16時の陽射しの赤みはほのかだが、木造の校舎内が照り出されたようにあたたかい色に染まっている。

「小運動会の計画書だが――」

友人が頭の上で言う。

「今作ってる」

俺が顔を上げずに答える。

机に向かってシャープペンシルを走らせる。それがそのまま印刷原稿になってもいい筆圧を俺は持っている。字はうまいと言える品は無いが、読みにくくも無い。ほどほど。

「各コーナーの係員は去年から置いて無いだろ」

向かい側に立つ友人が指差しで指摘する。

「いや、必要じゃないか?」

俺の耳には遠くグラウンドの掛け声が聞こえた。

「人数が割けないんだ。去年無しで良かったし、今年も無しじゃないと無理だと思う」

友人が肩を跳ね上げてバッグの位置を直す。

頭の中で実行委の人数を配置してみる。確かに、足りなさそうな感じだ。

「そうっぽいな」

俺は消しゴムを手に取る。

「それくらいか。あとは明日」

右足から友人が動き出したのだろう、かばんが目の前を通って行く。

「ああ。……いや」

うなずきかけて止め、俺は顔を上げた。友人はドアに手を掛けている。

「何だ?」

友人はドアを少し引きながら振り返った。

「本番は2週間後なのにこんなゆっくりでいいのかな、と」

グラウンドの声が斜陽に乗って差し込んでくる。俺は9月の気配を感じている。

「大丈夫だろう」

友人はドアを更に開きながら外へと向きなおる。俺は頭を掻いて机に向きなおった。

「やるしかないしな」

そうつぶやいた。

「どうなったって本番は来る」

それが友人の捨て台詞だった。

教室を出た俺はいったんは校門へと向けた足を菁莪堂へと踏みなおす。

久しぶりに行ってみよう。

しかし玄関口を開いた所でトロイメライの曲が聞こえた。

「まもなく閉館です」

司書氏の声が遠く聞こえる。

図書委員の特権の発動は控えることにして、すみやかに引き退がる。

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ノスタルジィ。

木造のあの校舎はもう無い。

建て替わった新しい校舎を見た。

直線的なラインとシミひとつ無い薄灰色。

光が柔らかく差し込むあの校舎はもう無い。

あ~あ。

都市より臭い。

「年寄り臭い」の誤変換に専門性が出るようなお年ですよ。

まったく、ため息。