雷句誠氏小学館提訴に触れて/種々雑感

雷句誠氏が小学館を相手取って原稿紛失に対する損害賠償訴訟を起こした件について。

原稿紛失に関するトラブルやらは昔から噂を耳にしたことがありましたが、訴訟沙汰がこんなに大々的に取り上げられるのは初めて見ます。

賠償金は原稿料の3倍ということですが…公開された計算方法が杓子定規すぎる気がするのですが。

だって中に連載第一回のカラー扉絵が入ってるんですよ?雷句氏本人にとってはサンデー本誌初連載の、しかもファンにとってはサンデーの看板だった大人気連載の、初回の扉ですよ?それを失くしといて「今払ってる原稿料の3倍ね。ちょっと色付けて切り良く50万にしといたから」(想像)ってのは、親身になってないなぁ、って思いますよね。

そもそも、「金色のガッシュ」自体あんなに大ヒットしたのに雷句氏のカラー原稿の原稿料が1枚1万7000円て。噂では1枚10万の大御所もいると噂のサンデーで、1万7000円て。

この原稿料が表に出てきたってのは水面下で大きな反響を呼びそうです。

陳述書では「引き延ばし」の提案に対する抵抗を想像させる部分があったり、『焼きたて!!じゃパン』で冠茂氏、『最上の命医』で高島雅氏と同名の美形キャラクタが登場する背景となっていそうな傲慢さが垣間見えたりと、なんだか興ざめです。

なにより『ジャぱん』は徐々に面白くなくなって行き、その頃冠茂が編集の名前と知って「編集が関与しすぎなのかな」と思えたのは今でも記憶に鮮やかなのですよね……。最後の1年くらいは本当にひどかった……サンデーはもうだめになると確信した。『最上の命医』は今の所面白いし、東大病院が全面監修らしいのでそんなことはないと信じたいけど、先週の美形万能キャラ登場に感じた悪寒は当たっていたのかと思うと怖い……。

ワイルドライフ』も、あれもちょっとなぁ…無理やりだったよなぁ。連載もそうだけど小学館漫画賞受賞とかね。

人気漫画の引き延ばしはどの漫画誌でも問題視されていますが、これまでは噂でしかなかった引き延ばしが原因となって編集と漫画家の関係がこじれていくさまが表沙汰になったのも初めてと思います。

これを機に円満終了が広がって欲しいと思いますが、終了のタイミングの見極めは有能な編集にしかできないだろうなぁ。特に、編集の能力にこれだけの個人差があるとなると、なかなか難しそう。

編集ってすごい人間力が必要な仕事だと思います。

すごく尖った専門能力を持った人間を宥め賺し時に叱咤激励し、発奮を促し、努力を強いるってのは監督コーチ心療内科医みたいな感じ。

漫画なら漫画が、小説なら小説が好きな人間じゃないとやっていけないよな。野球だって野球が好きな人間が監督やってるんだし。漫画家が寝ても覚めても漫画のことを考える人間だったら編集もそうじゃないと付き合っていけない。ごく当たり前だけど大企業だと難しいんだろうな。

編集の仕事と言うのは、作家がカンヅメになっているから、資料収集や取材の調整、スケジュールの管理、それから権利関係の処理をするってのが仕事の本分だと思います。アイディアに関しては困っていたら助言する、よっぽどダメなアイディアだったら理屈を持って説き伏せる、って感じがいいんじゃないだろうか?

サンデーはなぁ…僕は『金剛番長』『月光条例』『絶対可憐チルドレン』が好きですが今の看板は『ハヤテのごとく!』…ですよね?いや、面白いんですけど(特にハヤテの生い立ちが)、少年誌の看板かって言われると認めたくないものだな若さゆえの過ちと言うのは!って感じなのですが。ギャグなんだけど萌え要素が多いし、正統派って感じじゃないのが断言を躊躇わせる感じです。

立ち読み派が言うのもなんですけどね。

漫画をめぐる読者との関係はいくつかのパターンがあると思います。

・財力が限られていて学校で回し読みしている小中高生

・必ずしも財力が限られているわけではないけど、雑誌立ち読みで中身を確認して単行本を買う人

・アニメから入る人

・レビューサイトを参考に買う人

作者買いする人

・財力に余裕があるあるいは漫画狂いになっていて、ジャケ買いすら容易い人

みたいな。僕は2番目。

単行本からの利益の方が大きいらしいし、実際の所、漫画誌は単行本の広告としてしか機能してないんだろうなぁ。ただ、単行本を一冊仕上げるのには時間が掛かるからその間の当面のしのぎを兼ねて漫画誌連載は意義があるのだろう。

…でも、それってウェブでやってもいいんじゃないかと思ったり思わなかったり。

小説分野で文芸誌が廃れて単行本主体になった現状はそれなりに効率的なシステムだと思うし、少子化でパイが少なくなり、作家の移籍も増えてくると漫画誌というビジネスモデルも限界なんじゃないかと思う。

週間連載なんか編集の労力半端じゃないだろうし、その編集に掛かる労力の分購入時の価格に跳ね返ってしまうし、効率が悪いっぽい。

こういう中間部分の非効率さと言うのはどこの業界にもあって、それはバブルの遺産なのだと僕は思っている。

バブル期はなにもかもが好回転していて、間に余分なパーツを組み込むことで市場全体の大きさを水増ししてもそこに実を詰め込むことができていた。しかしバブルが弾けてパイが縮小するんだけれど、ピラミッド構造の上下関係だけは温存されて上が下に負担を強いる形になったから末端が疲弊している。

土建、IT、アニメ、漫画、行政(元請=国、下請け=地方)…この効率の悪さを改善する意味で、中間部分に就業している人員を再配置すれば人材不足なんて言わなくて済むと思うんだけど、下っ端ほど歯向かえないように単機能的に育成されているから汎用性なくて無理。奴隷は奴隷としてしか生きられないように育てられるから、奴隷自身はそれ以外に幸せになる方法がないと思いこまざるをえない。だから奴隷制度はダメだっていうのに、その人類的経験がさっぱり教育に活かされていない。

企業は大学で学んだことを無視したがるしな。その結果としての理系の地位の低さとかあると思うけど。

小学館は早稲田閥らしいけど、そういう学閥もほんとクズみたいな慣習だよな。

人間なんて人生経験が一番重要で、学歴なんてものは経験内容を推し量る指標の一つでしか無いのに。

そんないろんなことを考えました。

余談ですが、陳述書ってものの存在がとても興味深かったです。

訴状が形式にのっとらなければならず、どうしても関係者の感情をそぎ落とさなければならない面があるのに対して、陳述書で感情の部分をフォローしようという仕組みになっているんでしょうね。

例えばこの場合は、陳述書があるから裁判官は「雷句君も気持ちは解るけど伝聞やWikipediaなんかの情報を鵜呑みにしてはいけません」みたいなことが把握できるでしょうね。

訴状が公的な分、原告、被告それぞれにとっての私的真実を衝き合わせるのが陳述書かぁ。それこそウィキペによると参考にするしないは裁判官によって差があるらしいけど、参考にしてもらったほうが特に民事はトラブルの根本的解決に近づくよなぁ。よくできた仕組みだ。

この記事を書く前に見て、参考になったと思ったサイトへリンク

雷句誠の今日このごろ。

雷句誠氏のブログ。

「あの「松永豊和」の掲示板」>雷句誠氏の陳述書を読んだ! 投稿者:松永豊和

作品は全然知らないけど元小学館で描いていた漫画家さん。

まゆたんブログ「思うこと」

ネットで噂に聞のくとは大違いのしっかりした文章。

新條まゆが連載を休んだのは、休ませないと移籍すると脅したからだ」という虚言がまかりとおるだなんて恐ろしい……。

・空気を読まない中杜カズサ「下請けに負担をかける構造がマンガ界やゲーム界にも波及していると思う話

ライターさんのブログ。こういう見方は広がって来ていて、変えなきゃいけないと思っている人は多そう。

・NC-15「少年サンデーは漫画界の船場吉兆のような体たらくだな」&「船場吉兆よりひでえ:小学館(2)次々に出てくる内部告発

著作権エージェント「ボイルドエッグ」の話が出てきます。そういや一時話題になってました。

コメント欄の3番目、名無し氏の情報では新條まゆ氏の文章は編集が入っているという話ですが、下手なら下手なりに自認して修正を甘んじて受けるのも器のうちと思います。

三軒茶屋 別館 「この世界では日常ちゃめしごとなのでしょうか?」

ただ、賠償金額を下げた場合でも小学館は自分たちが扱っている原稿の価値を自ら貶めるという行為をとらないといけない

確かに。

ニュースサイトだと、ゴルゴ31さん、どどdの日誌さんを参考にしました。

橋口たかし氏を自称するブログは…真偽のほどもありますが(偽者なら小学館からクレームが来てすでに削除されそうなのにまだ残っている時点で本人あるいは本人側の可能性が高くなってきているのですが)、釣りかあるいは愚策過ぎるのでリンクを張りたくない。