渦/雑念

嗚呼、渇く。

雨で膚は湿っているのに、どうしてこんなに渇くのだろう。

喉の奥で何かが悶えている。

何かが俺の中で焦れている。

月だ。

円い月だ。

丸々と満ちて、巨きい。

目に入らない程に巨きいのに、

喉につかえる位に巨きいのに、

どうして耳の奥に映り、

どうして胃に凭れるのか?

金色なのに冷たい光だ。

昼の片目が激しいのだから夜には目を瞑っていてくれたらいいのに。

どうして昼も夜も僕を見逃さないのか。

目の裏で輝き、

耳の奥で囁き、

喉の奥で蠢く。

体は冷たく冷え切っているのに、

雨に包まれて覆われているのに、

何故こんな日にお前は隠れもせずに一層輝くのだ?

私は静けさを好むのに、お前が妖しく輝くせいでこんなにも騒がしい。

唸る者、嘆く者。

囁く者、吠える者。

ひりひりと肺が焦がれる。

もうすぐ歌がやって来る。

子守歌を歌いに。

風が孕み 育むは雲

翳すは月 乞うは土

天降りて 惑うは川

尽きるは海 皓月を映ず

天台に人在り

風に雅び 儚むは朧

陰るは面 恋うは夢

階下りて 彷徨うは街

月浮かぶ空 映ずるは影

何故歩いているのか

こんな誰もいない街を

月しか見ていない

月しか囁かない

月しか触れない

あんなに遠いのに手が届かないのが嘘みたいに近しい。

でも、手に触れるのは怖いものばかりで、哀しくて震えてしまう。

誰が震えているの?

誰が歌っているの?

僕?

これは僕だろうか?

だとしたら僕はどれだろうか?

僕は誰だろうか?

日が月に映り、月が人に映る。

人は人に映る?

映るとしてどんな風に?

僕が僕に映って、無限に像を結ぶ。

でも少しずつ角度を変えて、確証は薄れて、いつか見えなくなる。

誰がどれを見て、どれが誰を見て、それでどこに定着したのか?

見えているものすべてが僕で、今聞こえるすべてが僕で、僕が今考えて僕を成り立たせていて、それでいてどこにもとどまらない。

その流動は回転。

回転の中心に居る私を探している。