ラベンダーの煙草/夢日記

■060828.mon■

地下鉄のとある駅(と具体名を書かない時はそれは実在しない駅)、僕はホームへと降り立つ。

列車が来るまであと五分。ちょっと小腹がすいているのでホームの立ち食いラーメンを食うことにした。券売機で食券を買う。一杯百円という夢みたいな安さだ。

このラーメン屋、屋号は茜軒という。以前(夢の中で)食べたことがあるのだが細麺とんこつの絶品である。うきうきしつつ食券を持ってカウンターへ。しかし、無情にもホームに列車が入って来た。何故だ!?

どうやらダイヤが乱れているらしい。しかし茜ラーメンも捨てがたい。

「おばちゃん!ラーメン!」

一本後のに乗ることにして、カウンターに食券を出す!そして間髪入れずにラーメン登場!

「いただき…」

割り箸を手に食らいつこうとした瞬間!

「待った」

おばちゃんに取り上げられるラーメン。何故だ!?

「こんな注文してすぐ出るわけ無いだろ。他のお客のだよ」

「でも誰もいないじゃん!今のに乗ってったんだよきっと!」

事実、ホームには誰もいなかった。

そんなこんなで(肝心のラーメンを食べるシーンは何故か飛ばされて)、学校らしき場所に到着。

スーツ姿の三十代が多いので何らかの実務資格の試験なのだろう。試験を受ける教室の前で大学の先輩に出会う。お久しぶりですとか型通り一辺倒の挨拶を交換し、隣の喫煙スペースの教室へ入る。

先輩がタバコに火を点ける。Gだろう。

僕もタバコに火を点ける。

先輩が驚いて言う。

「へぇ、お前が吸うの初めて見た」

僕も驚いて言う。

「ええ、僕もびっくりです」(何せ一度も吸ったことが無いので)

タバコはちょっと長くて細身のやつで、ラベンダー色の紙で巻かれた見慣れぬ一本だった。その涼やかな外観とタバコの煙(を吸っている気分)、そしてほとんどアロマに近い心地よい香りが心を落ち着ける。僕はしばらく呆っと火が燃え進むのをじっと見つめていた。

呆っと見ているうちに灰色の部分が伸びてきて、3分の1ほど燃え尽きたところで気がついた。

そうだ、灰皿が必要だ。

灰は今にも崩れ落ちそうで、僕は慌てつつもそれが落ちないようにそっとポケットなどを探って携帯灰皿を探した。しかし、いくら探しても見つからない。どうやら持っていないらしい。

「すいません。灰皿借ります」

僕はそう言って先輩の灰皿を借りることにした。パッチワークのように七色に塗られた陶製の灰皿。がしかし、灰は灰皿の手前で無常にも崩れ落ち、僕は肩を落とした。煙草は半分ほどになっていた。

残った灰だけでも灰皿に落とし、もう一口銜えてみたがどうにも味気なく感じた。もう、肺はこいつを必要としていないらしい。

「どうも慣れないですね。もうお腹いっぱいです」

半分残った煙草を灰皿に残し、僕は窓際へと歩み寄った。

窓の外の景色は早朝だというのに薄暗い。視界右奥の方角から鈍色の雨雲が押し寄せてきている。

「雨が降りますね」僕は誰ともなく言った。僕は目上の人との会話が苦手なためにどうもこういう希薄な発言に偏りがちだ。

黒雲はどんどん広がり、ついには雨が降り出し、そして嵐になった。

激しい雨が窓を、地面を打ち、風がうなりをあげる。

試験につきものの駅からの行列を僕は見ていない。そしてこの嵐の中やってくる人々も見当たらない。

どうやらここにいるわずかな人たちを例外として、ほかの受験者は足止めを食らっているようだ。

「今日の試験は中止でしょうか…」僕はまた独語した。

「傘を持っていませんけど、駅までの距離はそんなに長くは無いですから走ったらそんなに濡れないでしょう。列車が止まる前に帰りたいな…いや、もう止まっているのかも知れないのか…」

□ □ □ 

夢の中で煙草を吸うとは…しかし、ラベンダーという色といいアロマの印象の方が強い。

茜ラーメンを食べるのは二度目か。実在しないが、底の浅い器に極細と表現すべき細麺がひたひたになっているラーメンで、あっさりしていて美味しい。夢の中で飯を食っている時はたいてい目覚めると腹ペコだ。

この先輩というのは、こういう社会人が理想像という人で、恐らく「社会人」を象徴している。煙草は社会人としてのストレスを象徴しているものと思われるが、どうも半分で一杯一杯ということか。

嵐も含めてどうやら社会人というものに対して苦手意識が相当強い様子が見て取れる夢だなぁ。