ダン・ブラウン『ダヴィンチ・コード』(角川書店)

今日公開の話題作という事で、便乗記事です。

ヨーロッパでもアメリカでも日本でもベストセラーと、モンスターヒットを飛ばしましたからねぇ。

僕は3ヶ月前に読んだのですが、映画公開の時に感想書こうと思ってたので、今になりました。

僕の感想としては、巧く書いた歴史ミステリの快作という印象ですね。

星をつけるとしたら4つ。佳作です。モンスターヒットは伊達では無いです。

「全て事実である」という巻頭言は反則ですが、笑って済ませるべきでしょう。ちょっと読んでいれば、これがフィクションである事など言わずもがなの事ですから。

予備知識が無くても十分に楽しめる親切さがありますし、予備知識があると料理人の腕を楽しむ事ができます。

エンターテイメント的に良い出来です。

さて、以下はこの本とはちょっと離れて、この本にまつわって起きた社会的ムーブメントについて書きます。

幾つかの訴訟が起きた事に象徴されるように、この本の着想の元となった幾つかのアイディアは、数年来、あるいは数十年来、世間の隅のほうでずっと唱えられてきたマイナーな説であり、ある程度そういうオカルト関連を齧っていたのであまり驚きはしませんでした。

そういうマイナーな説を、きちんと整えて一流の物語に構築した技量は賞賛に値すると思います。

それにしても、「マグダラのマリアはキリストの妻であり、二人は子供をもうけた」という説を取り上げて、これほどのヒットを飛ばすとは、かなり驚きです。

更に、英紙デイリー・テレグラフ(17日付)が報じるところによりますと、『ダ・ヴィンチ・コード』を読んだ人の6割が、「イエス・キリストには子どもがいて血筋が続いている可能性がある」と信じているとの世論調査結果を掲載したそうです。

幾つかのカトリック団体こそ反撥を示していますが、カトリック教会を“悪役”とするこの本が他でも無いヨーロッパで大ヒットを記録したと言う事実は、僕のような門外漢にも、ヨーロッパ社会(の特にインテリ

層)にとってのキリスト教の意味の変化を強く意識させます。

数年前には映画『パッション』も物議を醸しましたし、ヨーロッパにおけるキリスト教の位置に関して、大きな変化が起きているようですね。

現法王・ベネディクト16世は非常に保守的であると聞き及んでいますが、これからどう舵取りしていくのでしょうか。

古くは天文学の発展に揺らいだ教会は、今、生物学の発展に揺らいでいます。生物学は血統を思わせ、天文学よりもはるかに人々の生活との関わりが深い。その流れに逆らう事はより困難を伴います。

これまでヨーロッパの道徳・規範の中心であったキリスト教がこれからどのように変化していくのか、時代の大きな流れの一つとしてとても興味深く見守っています。

そんな風に、キリスト教の位置づけについて考えさせられた、本作品の大ヒットでした。