バス/夢日記
■060519/fri■
バスがのっぱらを行く。
広大なススキ野。
僕は左掌で頬を支え、物憂く眺めている。
ふと、通路側に人の動く気配。
バス停が近いのだろうか?
そう思って、何気なく右手を見上げた。
30歳前後の働き盛りの男。
黒髪、黒縁の眼鏡、薄茶のトレンチ。
しかし、そんな平均的サラリーマンの中に一つだけの異質。その眼の鋭さは異常だった。
思わず目線をたどる。
彼の視線の先には、こちらに背を向けたセーラー服の少女。
しゃんと伸びた背筋、揺るぎない静止状態。
鴉の濡れ羽の如き黒髪は短くボブに切り揃え、僅かに左右のこめかみの二房のみが顎へのラインに沿うように長い。
つ、と男が動いた。
「ちょっ…」と僅かに言いかけながら、僕も座席を立つ。
「死ねぇ!」と男は叫ぶ。
「待っ…!」と僕は追い縋る。
男の右手の周囲の空間が歪んで見える。
何かを起す事ができるのだろう。
少女が振り返る―、と同時に身を翻して男が突き出した右手を避ける。
男の右手の延長線上に在ったバスの左前面の角が粉々に切り刻まれて弾け飛ぶ。
大音響が鳴り響いたろうか?
僕の脳は視覚から得られたありえない情報を処理するので精一杯で、聴覚が馬鹿になってしまっている。
視覚だけが状況を捉える。
少女が右半身の姿勢から男の右袖を左手で捉え、右手は掌打の形で鳩尾へ。
その一刹那、僕は男以上に鋭い少女の眼光を見た。
掌打が衝撃を伝えた瞬刻後、右掌を返して突き上げ、左手を引く。投げに転じたのである。
宙を舞う男の長身は自身が開けた大穴から車外へと抛り出される。
そして、少女もそれを追って飛び降りる。
そして、乗客と乗員は取り残された。
穴の開いたまま、バスはしばらく走り続けた。
次のバス停で僕は降りた。
バスもあんななりでよく一区間を走ったものだが、走らねば人外の土地に立ち往生することになるのだから仕方なかった。
町は薄闇と、霧に包まれている。
街頭の光に、コケむした石積みが湿って独特の鈍い照り返しを見せているのが、妙に印象に残った。
□ □ □
いわゆる“戦闘美少女”ってヤツですね。
しかし、まさかバスを壊しただけで退場するとは…なんてハタ迷惑な奴らだ…。