エラリィ・クイーン『ドルリィ・レーン最後の事件』(ハヤカワミステリ文庫)

まず言及したいのは、この作品の翻訳の酷さ。

とてもこれ以前の三作を翻訳した訳者と同一人とは思えない。否、そもそも翻訳家と思えないレベル。

英米文学の専門家として、アメリカ作家の作中の"football"を”サッカー”と訳す素人みたいなミス。それも二度も!

46頁のミス(欧州育ちのペイシェンスのセリフの中)は大まけにまけて仕方ないとして、111頁のミスを引用すると「次はサッカー。ハーヴァードは素晴らしいクォーターバックを育て上げました。」となる。QBとは!

これは完全なるミスですが、この他にも、人物のセリフがそのキャラクタに相応しくない言葉遣いが散見されたり、荒さが目立ちました。

まず、訳が減点。

次に内容も粗い。緻密さが無い。

粗製乱造と言った感が拭えないです。

確かに、魅力的なアイディアがベースになっているのですが、そこから生まれたプロットが必然性とドラマを欠いている。

終盤は最も劇的であるはずなのに、(訳者の技量不足の疑いも残るが)ただ混乱するばかりで雑然としている。

結末は既に予想できているが故に、緻密であらなければならなかったのに。

また、これこそまさにレーン氏の変装の技術が活きそうなプロットなのに、それが無い。などなど。

ドルリィ・レーンという稀代の役者の退場に相応しくない雑然さ。

発表までに間を空けて、もっと熟成させて欲しかった。

高評価は難しい。星三つ。