吉本ばなな『哀しい予感』(角川文庫)
主人公の名前は五月。
五月はおばの家でしばらく暮らそうと思っている。
おばは一人暮らし。
五月は両親と弟と住んでいる。
でも、おばの家に行くだけの理由があって、それはとても重要なことなのだ。
そういう、確信とは言えない、だけど確かな予感が彼女を動かしている。
短い小説だ。
読んでみて感じたのは、氏も何か予感めいたものを感じながら書いたのではないか、ということ。今は短くしか書けない何かを少しずつ掴まえて形にしたような感触。不確定な確信。
あらゆるものが完全に語られないまま、すべてが予感に任されたまま、この小説は終わりを迎える。けれど何も不足は無い。そういう形の充足。可能性が残された終末。
失われる時に人は失ったことを悲しく思い、失った代わりに何かを得た時に人は失ったものを哀しく想う。
そんなことを学んだ気がした。