横溝正史『八つ墓村』(角川文庫)

謙遜ではなく、私はあえて告白しますが、こんどのここの事件では、ぼくにいいところは少しもなかった。

/金田一耕介のセリフから/

ほんとに活躍しません。

いえ、事件を解くのは金田一耕介なのですが、それでもいいところは少しもないのです。

この小説は寺田辰弥の視点から語られ、彼の冒険が物語の本筋となっています。

ある日、寺田青年は自分を探している人があると聞き、その探し人を代行する弁護士事務所を訪れます。

そこで応対した弁護士は、彼が母の連れ子として養父に育てられたことを確認した上で、本人確認のとどめに彼の「余人にはまねようとてまねられない目印」を見せることを求めます。

果たして、彼の体には彼自身にも覚えのない醜い紫色の傷跡が幾筋もあるのでした。

彼の体の傷を見て、その弁護士は大金持ちの身寄りが彼を引き取ろうと考えていることを告げます。

実の父かもしれない大金持ちの身寄りが自分を探し、引き取ろうと考えている。

普通の青年なら小躍りしそうなこの類の話を、しかし寺田青年は不安を持って受け取ります。

彼の心には何よりもまず、自分の体に刻まれた毒々しい傷跡のことが引っかかっており、そして幼い頃に見た母の恐ろしい発作のことが思い浮かんだからです。

さあ、彼の不安の通りにこの日より彼の人生は急転します。

勤め先には彼を探る謎の人物が現れ、居候先には脅迫状が届き、更には迎えに寄越された人物が彼の目の前で不可解なを遂げる・・・。

果たして彼の行く先、名も不吉なる「八つ墓村」には何が待っているのだろうか・・・。

財宝伝説、謎の洞穴、落ち武者の呪い、26年前の血塗られた大惨事・・・立て続けに起こる殺人事件に秘められた犯人の真意とは?

寺田青年を鍵として、秘密と謎が愛憎を伴って絡まりあうこの連続殺人事件。

寺田青年は無事に真実に辿り着けるのであろうか?

乞うご期待!

という感じですか。

事件に絡む、寺田青年を巡る恋模様も結構見ものです。